ノーブルホームカップ第26回関東学童軟式野球秋季大会の栃木県予選。芳賀町ひばりが丘公園野球場での決勝は、阿久津スポーツが真岡クラブを7対1で破り、2002年以来22年ぶり3回目の優勝を飾った。1対1で迎えた5回表、阿久津が6連打で4得点など終盤に突き放した。11月23日の関東大会1回戦は、山梨代表の甲斐JBCと対戦する。
※記録は編集部
(写真&文=大久保克哉)
優勝=22年ぶり3回目
あくつ阿久津スポーツ
準優勝
もうか真岡クラブ
■決勝
◇10月26日
阿久津 001051=7
真 岡 000100=1
【阿】栗林、二ノ宮-丸山
【真】林、舘野、小林洸-仲島
決勝で相対した両チームは交流があり、実はこの県大会の開幕前に練習試合をしていたという。そのときは阿久津スポーツの一方的な内容で、スコアは12対1だった。
ともに全国区の名門
「阿久津」というチーム名でピンとくるのは、県外では滋賀県の名将・辻正人監督(多賀少年野球クラブ)かもしれない。3回目の出場だった2003年の全日本学童大会の1回戦で対戦し、8対5で多賀が勝利しているからだ。
阿久津は登録19人で5年生7人。小林監督(下)はOBで指導歴7年、指揮官5年目で3年生の輝希は三男
阿久津の全国出場はその1回のみだが、当時の綱川治彦監督が現在も総監督を務めている。81歳とは思えぬ若さは、火曜から金曜日までの平日練習を一手に担っているせいだという。
「週末や試合の采配なんかは全部監督だけど、平日の練習は任せてもらっているので責任感みたいのがあるでしょ。教え子も誰か、必ず手伝いに来てくれるので助かます」
過去2回の県新人戦優勝も、綱川総監督が率いた時代のこと。5年前からはOBの小林勇輝監督が率いており、今大会は2回戦でサヨナラスクイズを決めるなど、勝負強さも発揮しながら決勝へ。
対する真岡クラブは、2009年と2015年に全日本学童に出場。初出場の09年に3回戦まで進出している。
真岡は登録19人で5年生は5人。コーチを務めてきた舘野監督(下)は新チームから指揮官に
勝田隆志監督が率いた現6年生たちは、1年前の県新人戦で初優勝(リポート➡こちら)。今夏の全国出場は叶わずも、9月初旬のGasOneカップ(東日本1都11県から16チーム参加)で優勝を遂げている。
下級生も何人かはそのメンバーに入っていたが、新チーム全体の仕上がりは例年より大幅に遅れた。それでも10月第2週からの、新人戦の県大会で3つ勝って2年連続でファイナルへ。新指揮官の舘野瞬監督は、1年前の『ノーサイン野球』は継承していないという。
「自分の野球はまず、守備がメインです。選手の野球脳を鍛えながら、小技とかエンドランも使います」(同監督)
後半戦で急展開
さて、試合は中盤まで、1点を争う展開のイーブンペースで進んだ。
3人で終わる攻撃がない中で、先発した両投手の粘投が光った。真岡の左腕・林幸詩朗主将(=上写真)は、ストライク先行のピッチング。阿久津は長身右腕の栗原海斗(=下写真)が、伸びのある速球で押して連打は許さない。
先攻の阿久津は2回に一死三塁、後攻の真岡も3回に一死三塁のチャンスをつくるも、それぞれ2者連続の凡退で無得点。先に均衡を破ったのは阿久津だった。
3回表、四球と平山皓哉(4年)のバント安打で一死一、二塁として、三番・丸山智暉の二塁打で1点を先取した。
「ウチは2アウトからでもセーフティバントをやります。バントは特に強化してきたところで、相手の守備陣形の弱点を突いて勝ってきたところもあります」と小林監督。続く4回の攻撃も先頭が四球で出ると、2者連続のバントで二死三塁に(結果、無得点)。出したサインは「送りバント」ではなく、「セーフティバント」だったという。
3回表、4年生の二番・平山のバント安打(上)で一死一、二塁とした阿久津が、丸山の左中間二塁打(下)で1点を先制する
その後、申告敬遠と二盗で二死二、三塁とした阿久津は、二番・平山がまたバント安打を狙うもファウル。そして追い込まれた左打席の4年生は、左中間へ長打コースの打球を放つ。
しかし、真岡の中堅手・栁和希(4年※「ヒーロー❷参照」)が、長打コースの打球をダイレクトで好捕。これで流れを呼んだ真岡は、直後の4回裏に1対1に追いつく。四番・仲島悠人のテキサス安打に続き、林主将が右越えの適時三塁打を放った(=下写真)。
先の練習試合で阿久津の栗林を打ちあぐねていた真岡打線は、攻略のために待ち方を統一していたという。以下は舘野監督の試合後の談話だ。
「70球の投球制限もあるし、1-1の並行カウントまでは見てから勝負という作戦でいきました。ただ、去年から試合に出ている三番の舘野(奏空=4年)と五番の林は、大会を通じて基本的にノーサイン。林は同点打で応えてくれましたけど、努力家で、あれくらいは普通に打てる子です」
林主将も快心の一打だったと振り返ったが、直後の5回表のマウンドを悔いていた。先頭に中前打されてから、6-6-3の併殺を奪うまでは良かった。でも、そこから4連打を浴びての3失点で降板することに。
「ゲッツーを取って油断したわけではないですけど、どこかで流れを切らないといけなかった。それができなくて…」(林主将)
意図した「問いかけ」
一方の阿久津は、1対1に追いつかれて迎えた5回表。小林監督は攻撃前のナインに円陣でこう問いかけていた。
「ど~すんだ? 負けたわけじゃねーかんな!」
先頭が出た後に内野ゴロ併殺。そこから左前打を放った五番・川尻一太主将(=上写真)は、こう決意して打席に入ったという。「このまま3人で終わると流れが悪くなる。勝ち越すために、絶対に塁に出る!」
続く打者たちも、同様の考えだったようだ。結果、一番・栗林までの6連打(=2人目以降、下写真)と押し出しで5得点。4連打目となる2点タイムリーを放った八番・髙橋伸は、自分で狙い球を絞っていたという。「最初の打席で高めの球を打ち上げちゃった(二飛)ので、高めはもう手を出さないようにして、低めの球を待ちました」
5回表、五番・川尻以降の阿久津の5連打(上から順)。森田哲大=左中間二塁打、二ノ宮直之=左前打、髙橋=左前打、岡田大翔(4年)=遊撃内野安打、栗林=中前打
下位打線にも自ら考えられる打者がいる。それも打線のつながりや勝負強さの一因だろう。意気消沈しかけた選手たちへ「指示」ではなく、あえて「問いかけ」をした指揮官には、こういう意図があったという。
「やっぱり、同点に追いつかれたら緊張するし、それが出るじゃないですか。そういうときにこそ、強い気持ちを持ってもらいたいので。結果はどうでも、自分たちで考えた経験が今後の役にも立つと思います」
怒涛の6連打の最中、真岡は二番手で4年生の舘野をマウンドへ送る。今大会を通じての継投パターンだったが、相手打線の火は手に負えないほど燃え上がっていた。
6回表、阿久津は先頭・川尻の左前打から3連続バント(安打1本)でダメを押し、22年ぶりに秋の栃木王者に返り咲いた。
6回表、阿久津は髙橋がスクイズを決めてダメ押し(上)。5回から登板した二ノ宮(下)は、被安打1の無失点で締めた
〇阿久津スポーツ・小林勇輝監督「6連打なんて、めったいないですね。下位打線がつないでくれたことが勝ちにつながりました。ここぞで1本を打つのは難しいので、全員野球で守り勝つ。これからもこのカラーでいきます」
●真岡クラブ・舘野瞬監督「同点に追いつくまではピッチャーも流れを止めようと必死で、バックもみんなで1個ずつアウトを取れたのは良い点。下級生が5人出ていますけど、経験値が高いので能力的にも5年生チームとそん色ないと思います。冬場は、次の塁の1つ先を狙う走塁から入りたいと思います」
―Pickup Hero❶―
憧れのマスクマンとなり2年。「難しいけど、楽しい!」
まるやま・ともき
丸山 智暉
[阿久津5年/捕手]
決勝は2打数2安打で2四死球と、全打席で塁に出た。3回には左中間へ先制のタイムリー二塁打、続く第3打席はセンター返しのクリーンヒット(=下写真)だった。
三番打者として及第点だろうが、丸山智暉は納得していない様子だった。打撃内容は、シングルヒットのほうが良かったという。
「左中間に打った(先制打)のはフライ気味だったので。もっとライナー性の打球で、2ベースじゃなくて3ベースやホームランになるように打ちたいです」
身体のサイズは並でも、捕手の基礎スキルと守備範囲は明らかに並以上。常に冷静でキャッチングが安定している。身軽な上に打球への反応が鋭く、小フライもアウトにして投手を助けることも。
「先輩にカッコいいキャッチャーがいて、2年生ぐらいから自分もやりたいと言ってきました。レギュラーになったのは4年生です」
決勝では記録に残らないファインプレーもあった。1回裏、一死一塁で打球はライトへ上がる。これをダイレクトで捕球した4年生の平山皓哉は、塁間から戻る一走を刺そうと一塁へ送球。一塁手はそれを捕りきれなかったものの、丸山がバックアップしていたことで、走者を先へ進めずに済んだ(=下写真)。
「前にああいう場面でカバーに入ってなくて、点が入っちゃったので。監督に教えてもらって、状況によってカバーに動くようになりました」
5年生秋の時点で、そこまで適切に怠りなく動ける捕手はそう多くないだろう。
「キャッチャーは楽しいです。難しいこともまだいっぱいあるけど、やってやる!っていう気持ちです」
捕手の値打ちは、肩の強さだけで決まるものではない。もちろん、丸山もフットワークを使ったときには、二塁へも強いボールを投げている。
「県大会では盗塁をあまり刺せなかったので、関東大会では1個でも多く刺してチームに貢献できるように頑張りたいです」
―Pickup Hero❷―
4年生の九番・中堅が招いた、3つの“どよめき”
やなぎ・かずき
栁 和希
[真岡4年/中堅手]
1年前の県決勝では、遊撃を守る舘野奏空(当時3年)が、上級生も顔負けの華麗な打球さばきを繰り返し披露した。初めて見て感激する大人たちもいたが、今年は4年生の九番・中堅、栁和希がやはり、多くのどよめきを誘った。それも1度ならず、3度だ。
まずは3回裏の第1打席。右打席から放った飛球はセンター方向へ上がり、追走してきた中堅手のグラブに当たって地面に落ちた(記録はヒット)。特大のフライではなく、捕球される可能性も十分にあった。
それでも、栁は抜かずに走っていたのだろう。一塁を蹴って当たり前のように、二塁へ到達した(=上写真)。その駆けるスピードの、何と速かったことか。
「50m走は8秒3。学年では足は一番速いです。走塁ではいつも先を狙っています」
続く驚きは、4回表のピンチでの守備。抜ければ確実に2失点という、左中間へのライナー性の打球を、全力走からダイレクトキャッチしてみせた。コーチ陣は歓喜のグー・タッチで栁を出迎えた(=上写真)。チームはそれから始まった攻撃で、1対1に追いついている。
「栁は足も速いし、これから野球を覚えていけば、もっと良い選手になるかなと思います。大事にしていきたいですね」と舘野瞬監督。
3つめの驚きは「肩」と「胆力」だ。同点とした直後の5回表の守り。先頭打者の痛烈なセンター返しを、バウンドしてから捕球した栁は迷うことなく、一塁へ力強く投げた。結果、タイミングも明らかなセーフでセンターゴロとはならず。
だが、無走者で打球が速かったので、勝負の判断は決して間違いではない。また、決勝という舞台で実際に投げられたのは、練習による自信と勇気もあればこそだろう。
※写真はイニング開始前のライトとの練習
「一番好きなのはバッティングです。センターゴロはいつも狙っています。これからもずっとセンターをやりたいです」
世代No.1の称号はいかにも時期尚早ながら、「中堅手」というフィルターにかけると一番上に名前がくるのかもしれない。